1粒の雪の中に、実は複数の結晶が入っていることがあります。 一見ふつうの六花に見えるのに、真横から見ると2枚に分かれている。 枝が12本に並んでいる。腕の表面から別の枝が斜めに生えている—— そのどれもが、結晶が1個ではないことの現れです。
操作方法:モデルはドラッグで自由に回転できます(スマートフォンでは1本指でなぞる)。「真上から」ボタンで顕微鏡写真と同じ視点、「真横から」で厚みや層構造が分かる視点になります。スライダーのあるモデルは、形を決めている量そのものを動かせます。
複雑な立体配置は、完成した 1〜3 mm の段階で突然できるのではありません。 多くの場合、全体がまだ 0.1〜0.5 mm の初期段階で 2層の位置関係や2結晶の接触関係が決まり、その後 mm 級まで成長します。
基本配置が決まる:0.1〜0.5 mm → 完成形:1〜3 mm
層間隔、中心柱、中心ずれなどの局所構造は、数十 µm 級であることが多いです。
1+5花、2+4花、3+3花などは、 2つの完成した結晶がその枝数のまま合体したとは限りません。
共通核型では、上下2層が本来それぞれ6方向へ伸びる可能性を持っています。 ところが対応する枝どうしが同じ水蒸気を奪い合うため、 一方の枝がわずかに先行すると、もう一方を遮蔽してしまいます。
片方の枝が先行 → 水蒸気を多く集める → 反対層の対応枝を抑える
その勝敗が6方向ごとに異なると、1+5、2+4、3+3 という 補完的な枝の分配になります。 別経路として、2つの小結晶が初期にほぼ平行に接触し、 重なった部分の枝が抑制される場合も考えられます。
組み合わせ六花。真上から見るとふつうの六花ですが、「分解」で上下2つの結晶に分かれます。
上下2層の双方が6本の枝を保つと重なり六花になります。 2つの六花が面内で約 30° ずれると、枝が約 30° 間隔に並び、十二花に見えます。
重なり六花と十二花。ズレ角 0° が二重六花、30° が十二花です。
重なり六花には、共通核型と、独立した2結晶が併合した型の2種類があり、 観察から区別できます。
| 観察特徴 | 共通核型 | 併合型 |
|---|---|---|
| 中心位置 | ほぼ一致しやすい | ずれやすい |
| 2層の平行性 | 高い | わずかに傾く場合がある |
| 枝の方向 | ほぼ一致 | 任意の回転差を持ち得る |
| 接続 | 短い中心柱 | 局所的な接触部 |
| 枝の模様 | 対応・競争関係が出やすい | 比較的独立しやすい |
30° に見えるだけでは双晶と断定できません。 十二花の最も有力な形成経路は、2つの小さな板状結晶が成長初期に ほぼ平行な姿勢で接触し、その後ともに成長する併合型です。 少数には回転双晶・多結晶核が含まれる可能性がありますが、 判定には中心の一致、接続部の様子、結晶格子方位などの追加情報が必要です。
この主題については、 組み合わせ六花・重なり雪結晶の3Dモデル集で 1+5花・2+4花(60°/120°/180°型)・3+3花(隣接/2+1/交互型)・ 十二花・3層結晶を個別のモデルとして扱っています。
枝が6本でない結晶は珍しくありません。 グローバル分類には P5「分離・多重六花状結晶」という中分類があり、 二花(P5a)・三花(P5b)・四花(P5c)と 十二花(P5d)・十八花(P5e)・二十四花(P5f)が並んでいます。 群の名前に «分離» が入っているとおり、 分類そのものが «六花が分かれてできる» 経路を認めています。
一方、一花・五花・七花・八花には名前のついた区分がありません=未分類です。 ただしこれは «観測されない» という意味ではありません。 分類を作った菊地ら自身が、五花について «あっておかしくはないのですが、なかなか見つからない» と述べています(菊地・梶川 2011)。 その空白は埋まりつつあります——牟田 (2026) が北海道・旭岳で 一花、五花4例、七花3例、八花1例を撮影し、«未分類の雪結晶» として報告しました。 七花はそれ以前にも、中谷の図版に2例、油川 (2004) の観測に2例があります。 以前この節では «P8a 非対称板状に分類される» と書いていましたが、 出典のない推測だったので撤回します——未分類の結晶をどう帳簿づけするかは観察者の判断です。
そもそも «非対称» という言葉が正しくありません。 枝を1本だけ欠いた理想的な五花は、欠けた方向を通る鏡映面を1枚持ちます(点群 m)。 これは一花や、隣り合う2本が残った二花と同じ対称類です。 向かい合う2本が残った二花(2mm)と比べても、 «五花のほうが二花より非対称» と言える根拠はありません。 整理すると:一花 m、二花 2mm(対向)または m(隣接)、三花 3m(1つおき)、 四花 2mm(対向欠け)、五花 m、六花 6mm。欠けても鏡映対称は残るのです。 牟田 (2026) が観測した八花も «近似的に2回対称» でした——割れても、対称性は簡単には消えません。
6より少ない場合と多い場合では、しくみが逆向きです。
6より少ないとき——基本は «分離» です。 中谷は、よく見ると2枚以上の板が重なって六花に見えている結晶を «組み合わせ6花» と呼びました(1花+5花/2花+4花/3花+3花 の7通り)。 油川 (1992) の計数では、六花のうち 9.3% が 1花+5花、 7.2% が 2花+4花、5.7% が 3花+3花 の重なりで、通常の六花は 77.8% です(牟田 2026 より)。 重なりが空中や着地で離れれば、二花と四花が、あるいは三花が2つ—— そして 1花+5花 が離れれば一花と五花ができます。 1花+5花 型の重なりがいちばん多いのですから、 «五花や一花が観測されない理由はむしろ考えにくい» ことになります(牟田 2026)。 これに、六花の枝が根元から折れる破断が加わります。 別枠として三花には、面のゆらぎが気流を変えて 1つおきの面を伸ばす空力説もあります(Libbrecht & Arnold 2009)。 なお五花自体にも、1枚板の五花と、複数枚が重なった «組み合わせ5花» の 両方が観測されています(牟田 2026)。
6より多いとき——結晶が何個重なったか。 十二花・十八花・二十四花は、それぞれ2個・3個・4個の板状結晶が 中心の近くでほぼ平行に重なったものです。 枝が等間隔に並ぶなら、ズレ角は 30°・20°・15° ずつになります(=360°を花数で割った値)。 上田・菊地 (1990) は68個の十二花を c 軸に直角な方向から解析し、 ほとんどが2枚の板からなること、枝の角度分布に回転双晶の証拠がないこと、 大部分が併合(雪片説)で説明できることを示しました。 Kikuchi & Uyeda (1998) は十二花・十八花・二十四花をまとめて扱い、 中心のずれ l と枝長 L の比 d=l/L で «ほぼ同心» か «ずれた併合» かを区別しています。 名前があることと、よく降ることは別です—— 枝の数が増えるほど、出会う機会は少なくなっていきます (頻度の定量は、出典を示せる形では確認できていません)。
七花には、確認されただけで3系統の作られ方があります。 ①角の分裂型:1枚の角板の1つの角が2つに分かれ、そこから枝が2本出る(牟田 2026)。 ②表裏二段型:中心の角板が上下二段になっていて、裏の面からもう1本が出る(油川 2004)。 油川はほかに、側枝が主枝なみに育った例や、中心から7本がほぼ同等に伸びた例も示しています。 ③重なり型:六花に一花が重なった «組み合わせ7花»(牟田 2026)。 前の版でモデルに描いた «六花+相方の1本» は仮説と明記していましたが、 この③として実例が確認できたので、仮説の但し書きを外しました。 枝どうしの角度は、正規の 60°・120° を 50°-20°-50° や 13°-47° のように分け合いますが、 値に規則性はなく、双晶で決まる特定角(22°・28°・30°)とも一致しません(油川 2004)。 つまり七花の変則枝は、立体樹枝のような双晶則では説明できません。 実物を見分ける手がかりは前の版と同じです:第7枝が既存の枝とほぼ平行なら重なり型、 枝の間に割り込むなら角の分裂か別結晶。 五花では欠けた位置の切り株(折れ跡)の有無——実際、牟田の一例では 欠けた位置の角が扇を持たない素の角のまま残っていて、成長で埋まる前に離れたと読めます。
八花は、向かい合う2つの角がそれぞれ割れた形で、 全体はほぼ2回対称です(牟田 2026、1例)。 未分類の形はほかにも見つかり続けています。6本の枝を持ちながら全体が三角形に見える «三角の6花» は、よく調べると1花と5花の重なりでできた例がありました(牟田 2026)。 十数年ぶりに再観測された鴎状結晶の報告もあります(島田ほか 2022)。 分類は完成品ではなく、観測が増えるたびに更新される台帳です。
これとは別の読み方も公刊されています。 油川英明氏は、過冷却微水滴を封入した容器の中で直接雪結晶を作る実験を行い(油川 2004)、 複数の微水滴から成長した結晶が七花になりやすいこと、 ゆっくり凝結した微水滴は樹枝や角柱に結晶化する一方、急に凝結したものは氷球に凍ることを示しました。 さらに近年は、6本の枝の中心が1点に定まらない六花状の結晶を根拠に、 枝は過冷却雲粒から個別に生えるという立場を取っています(北海道の雪氷 42–43, 2023–2024)。 この見方では枝の本数はそもそも6に縛られないので、五花も七花も特別ではなくなります。 これは本サイトが採っている通説(水蒸気からの気相成長)と対立する少数派の主張ですが、 七花の写真と角度の測定という観測事実は、解釈の立場と独立に有効です。
花数のできかた。読み出しに分類記号(未収載のものは «未分類»)・面内の対称・出典が出ます——五花にも鏡映面が1枚残ることが確認できます。七花は «角割れ» と «重なり» の2プリセット、八花はほぼ2回対称。「分解」で何枚重なっているかが見え、6本に満たない場合は欠けた枝の位置を薄く表示します(ボタンで消せます)。
花数だけでは «双晶» と決められません。 30°・20°・15° という角度は «等間隔に並んだ場合» の幾何であって、 実物のズレ角はさまざまです。 十二花と同じく、十八花・二十四花でも、 中心の一致・接続部の様子・層の平行性といった追加の観察がなければ、 併合と多結晶核(双晶)は区別できません。
ここまでの立体は «板が重なる» 立体でした。もう一つの家系があります。 出発点は多結晶に凍った水滴です。 過冷却の水滴が急に凍ると、1個の結晶にならず、 向きの違う小さな結晶の寄り集まり(多結晶)になることがあります (初期結晶の分類では G4 多結晶氷晶。凍っただけで成長していないものは H1a 凍結雲粒)。 そこから先は、第6段階の «温度の地図» がそのまま効きます—— 同じ種でも、どの温度域で育つかで別の名前の結晶になるのです。
柱の領域(低温)なら砲弾集合(C4d)。 各成分結晶が柱として外向きに伸び、中心との接合部が錐状にとがります。 とがった側が中心=凍結水滴だった側です。 空中や着地で分離すれば、1本ずつが砲弾(C4b)—— 分類の解説も «砲弾は砲弾集合が分離してできる» としています。 さらに落下して板の領域に入れば、鼓とまったく同じ理屈で 各柱の端(外向きの基底面)に角板が付き、 角板付砲弾・角板付砲弾集合(CP2a・CP2c)になります。
低温の板の領域なら交差角板(CP4a)。 成分が板として育つと、2枚の角板が «ある程度決まった角度» で交わった結晶になります。 3枚以上が放射すれば放射交差角板(CP4c)、一方向に連なれば連鎖交差角板(CP4b)。 −25℃前後より低い温度でできるため、関東では南岸低気圧の雪に混ざって届くことがあり、 上空の低温層の存在を教える «手紙» として注目されています(#関東雪結晶 プロジェクト)。 なお、立体樹枝の節で触れた藤野・本吉 (2021) の «交差角板状の枝» は、 母結晶の腕の上にこの形が乗った例です。
−15℃付近の樹枝の領域なら放射樹枝(P7b)。 各成分から樹枝が伸び、平面に収まらない毬のような結晶になります。 放射樹枝は観察頻度の高い型で、«立体的な雪結晶» の身近な代表はむしろこちらです。
そして角度です。凍結水滴の実験(上田・菊地 1976)では、 成分結晶の主軸どうしの角は 20〜30° と 60〜80° にピークを持ち、 焼結が進むと 60〜80° だけが残りました。 立方配列モデルで c 軸がとる <111> 方向どうしの角は、 ちょうど 70.5° か 109.5°——実測のピークと重なります。 つまり砲弾集合の軸の開き、交差角板の交差角、そして次節の立体樹枝の枝の傾きは、 同じ積層のいたずらが違う温度で見せる顔なのです。 下のモデルでは、同じ中心から3つの顔を切り替えられます。
多結晶に凍った水滴から放射する家族——中心の核はごく小さく(実物写真では砲弾どうしがほぼ一点で会合し、核はほとんど見えません)、「分離」で引き離すと小さな核が現れます。成分結晶の軸は立方配列の <111> 方向に量子化してあり、どの2本も 70.5° か 109.5° で交わります(実測は 60〜80° にピーク:上田・菊地 1976。交差角板そのものの角度分布の集計は未確認で、70.5° は期待値です。c 軸どうしが90°付近の組を扱った研究もあり(Uyeda・Kikuchi 1982)、<111> 量子化は理想化です)。「分離」で砲弾集合→単独の砲弾(C4b)、「端に角板」で CP2a/2c(角板付砲弾・角板付砲弾集合——板の領域を通過した印)を試せます。
立体樹枝との違いをはっきりさせておきます。 立体樹枝(次節)は単結晶の母の腕の表面から双晶の枝が生える形で、根元に雲粒の玉は残りません。 こちらの家族は多結晶に凍った水滴そのものが中心で、全方位に開きます。 «立体的な雪結晶» と一口に言っても、種が単結晶か多結晶かで別の家系です。
−20℃より低い雲では、さらに変わった顔ぶれが現れます。 菊地が昭和基地で初めて報告し «低温型» と名づけた一群で、 主役は四角形(CP6)・鴎(CP9)・御幣(CP7)です。 発見報告(Sato & Kikuchi 1985 の序文)は«ほぼすべて多結晶»としますが、 分類では単結晶(CP6a)・多結晶・双晶関係をもつ複合結晶が混在します。 一部の型では凍結雲粒や砲弾集合との形成上の関係が報告されていますが、 すべてが同じ経路で生じるとは限りません。 まず、いちばん謎めいた四角形から。
四角形(CP6a 骸晶四角形)は、名のとおり六角ではなく四角い板です。 ただの欠けた六角形ではありません——分類の解説は «板状だが、板の広い面の結晶方位がふつうの板状群と異なる» と明記しています。 では何の面が広がったのか。手がかりは分類そのものにあります。 この結晶は板なのに P 群ではなく CP(柱状・板状)群に置かれ、 同じ CP6 の端には «柱面が板状になった結晶»(CP6h)が並び、 次に見る御幣も柱面を広げて育っていました。 つまり«柱面が広い面になった板»——ふつうの角板とは 結晶方位が異なる、特異な板です。この方位が四角形状の外形と関係しています。 そしてこの読みは、分類本文そのものが裏づけています。 CP6a は«柱面 (101̄0) からなる骸晶四角形の単結晶»と明記されているのです (Kikuchi ほか 2013, Atmospheric Research 132–133)。観測は−25℃以下。 ただし本文が保証するのは«広い面が柱面であること»で、 写真だけから各稜・各小面の結晶学的な指数を一意に割り当てることはできません—— 内部の細部はモデルでは模式として扱っています。 2012年の日本語版解説はさらに具体的で、CP6a は«C3b 骸晶角柱を a 軸に沿って切った 縦断面の半分»と思えば分かり易く、偏光顕微鏡で青一色か黄一色に見えることが 単結晶の柱面である証拠だとしています。外形が同じでも、直交する2本の砲弾のうち 柱面の成長が1本に限られた多結晶は CP6b——偏光なしでは CP6a と区別できません(同解説)。 CP6c は«柱面の成長の途中から主軸が90°変わった»多結晶(青⇄黄が切り替わる)で、 モデルの«一度だけの転換»表示と整合します。CP6d 複雑骸晶多角形は多くの場合五角形です(同解説)。 名前の«骸晶»は、縁と角が先に育って中央が置いていかれる掘れた構造のこと—— 第7段階で扱った骸晶的な縁・段差と形態上の共通性があります (この特異な結晶方位を含め、同一の成長機構だけで説明できるかは別の問題です)。 単結晶(CP6a)か多結晶(CP6b)かは、ふつうの光では見分けられず、偏光顕微鏡の出番になります。 四角形が連なれば CP6c——こちらは単結晶として成長したのち c 軸方向が90°変わるのが特徴です(同分類)。 骸晶砲弾が付けば CP6f——凍結水滴の家族との同席はここでも続きます。
骸晶四角形(CP6)。「骸晶の深さ」で平らな板から段状に掘れた枠へ、「連なり」で CP6c 多重骸晶四角形になります。「偏光で見る」は多結晶(CP6b)の場合のイメージ——ふつうの光では単結晶(CP6a)と見分けられません。矢印は c 軸——広い面が柱面 (10-10) であることは分類本文に明記されています(面内のどちら向きかは模式)。「連なり」では、CP6c の特徴である«c 軸方向が90°変わる»様子を、矢印を90°ずつ交互にして示します。「砲弾を付ける」で CP6f です。板の厚みと段差は見やすさのため誇張しています。
御幣(CP7a)は、神社の御幣の紙垂のように 菱形の帯が段々に連なった結晶です。Sato & Kikuchi (1985) の定義は明快で、 ①多結晶 ②先端が閉じる ③中心線について対称 ④段状に成長。 中心線が2つの結晶の境界(粒界)で、偏光顕微鏡では左右がくっきり色分かれします。 極域で集めた116個の先端角を測ると、 約77°に主ピーク、約54°に副ピーク(ごく弱い66°も)がありました。 77°や54°は、1世代の積み間違いで出る 70.5° では説明できず、 立方の積み間違いを«2回»はさんだ組(6×6=36方向)から出る角と一致します—— ただし、この模型が予言する他の角は観測されておらず、そこは未解決です。
生まれ方も突き止められています。人工の御幣(−40℃で78°、−32℃で55°)は どちらも砲弾集合の一部として育ち、核生成時の水蒸気は水飽和かその近く。 つまり凍結雲粒から生まれ、2つの結晶の柱面が小さい角で交わると、 その粒界が伸び出して御幣になるのです。 分類に «砲弾付御幣(CP7b)» や «交差角板付御幣(CP7c)» があるのは、 同じ凍結水滴の家族が同居するからです。
矛先(CP8)は、2つの成分結晶の境界に沿って鋭い形が連続する低温型です。 角度は定義によって異なる値が併存します——分類の外形値は約60°(Kikuchi ほか 2013)。 一方、結晶構造の解析では、矛先は{101̄3} 面を接合面とする双晶で、 c軸間角116°・柱面どうし31°、先端角54°の御幣型に対応すると報告されています (Sato・菊地 1989 の公開要旨で確認)。左右成分の個別尖角に約26°/30°のピークがあるとの 指摘もありますが、本文は自動アクセス制限のため未確認です。 60° だけを唯一の値として他を退けることはできません。
鴎(CP9)は、飛ぶカモメのようなV型の多結晶です。 構造解析(Sato・菊地 1989 の公開要旨)によれば、内曲がり型は 矛先を母結晶とし、その接合部から同じ構造の翼が二次成長したもの。 外曲がり型は二翼のなす角が約130°で、翼の構造は矛先と同じ (貫入双晶による形成の可能性)。内曲がり側の角度分布(約80°ピークとの指摘)は本文未確認です。 角板が翼の内側に付けば CP9a、外側なら CP9b、両側なら CP9c。 鋸歯状結晶が内側に付けば CP9d、外側なら CP9e—— 内外両側に鋸歯を持つ型は分類では未観測です(Kikuchi ほか 2013)。 観察はほぼ寒冷圏に限られ、島田ほか(2022)が扱う国内例は 2007年3月の上富良野(吹上温泉)と2020年12月の稚内 (山岳域には他の観察がある可能性を同論文が示唆しています)。 稚内の例は地上−9.6℃、雲頂に相当する高度2106 mで−27.7℃という強い寒気の下、 対流圏下層で成長したと考えられています。
低温型の複合結晶たち。プリセットはモードごとに切り替わります——御幣:77°/54°/66°(極域116個の実測ピーク)、矛先:60°(分類の外形値)/54°(1989:御幣対応の双晶)、鴎:130°(外曲がり・1989要旨)/80°(内曲がり・本文の指摘=未確認)。色の違いは結晶方位の異なる領域で、中心線が2結晶の境界です。鴎の付属は CP9a〜e の排他プリセット(両側鋸歯は分類で未観測のため選べません)。御幣・矛先の段の重なり・奥行きのずらし・半ピッチのかみ合わせは、段状成長と«連続した歯»の簡略模式です(1989本文のフィン形状の詳細は未確認)。
低温型は «高い空の手紙» です。 御幣・矛先・鴎・四角形・交差角板・砲弾集合——この節と前節の顔ぶれは、 どれも−20〜−25℃より低い雲で生まれます。 地上でこれらに出会ったら、成長域に強い寒気が存在した可能性を示す有力な指標です。 ただし一個の結晶だけから形成温度や高度を一意に決めることはできません—— 鴎の稚内の例のように、気温の鉛直分布や雲頂高度などの気象資料と照合することで、 成長した高度・温度帯を推定できます。 似た形が低温専売とも限りません——山下(1974; 1979)は、鴎によく似た «V字氷晶»が高温領域(−3〜−10 ℃)と低温領域(−18 ℃以下)の両方で成長することを 報告しています(2012年分類論文の記述による)。
中心や腕から、別の枝が決まった角度で生えている結晶があります (立体樹枝、十二花、交差角板、砲弾集合)。 これは電場の産物ではなく、結晶学の産物です。
決め手は、規則性が固定される座標系にあります。 もし電場が原因なら、枝の向きは空の座標系(重力や電場の方向)に揃うはずです。 ところが実物では、枝は結晶自身の軸に固定されています—— 結晶を回すと、刺さり方も一緒に回ります。
起源は第5段階で触れた積層乱れです。 六方晶の氷に立方配列の薄い層(積層の誤り)が挟まると、 その境界の先では結晶の向きが変わります。 立方晶の {111} 面は六方晶の基底面と等価なので、 境界をはさんだ2つの部分の c 軸は 70.53°=四面体角 109.47° の補角で交わります (実測のピークは約 70°)。 Kobayashi と Furukawa は、立体型の枝と母結晶の接合部を解析し、 この立方配列の薄い積層(m-c-c-m 型)を介して、 枝が母結晶の腕の表面からエピタキシャルに—— つまり «同じ結晶の続き» として——生え出ていることを示しました。
では、枝は板の片側だけに出るのでしょうか。ここは二段に分けて考える必要があります。
枝1本を見れば、必ず片側です。 枝は母結晶の表面にできた芽から伸びるので、母結晶の中には伸びられません。 芽ができた面の側にだけ伸びる——これは構造上の必然です。
結晶全体で見ると、片側とは限りません。 どちらの面に芽ができるか、それだけの違いです。 板状結晶は落下中ほぼ水平の姿勢を保つため、引き金になる出来事——過冷却雲粒の衝突や、 風上側での活発な成長——は一方の面に偏りやすく、片側寄りになりやすい傾向はあります。 一方で板は成長の途中で何度も反転し、姿勢が乱れることもあるので、両側に出た例も現れます。 さらに、芽が板の厚みの中に取り込まれた場合には、そこから上下の両方向に伸びて、 枝が板を «貫いて刺さった» ように見えます。
写真だけでは決められません。 受け板に載せて撮る以上、下側の枝は折れたり、結晶の陰に隠れたり、 結晶が傾いて上下の判別がつかなくなったりします。 実物写真で枝が全部同じ側を向いて見えても、それだけで «片側の結晶» と断定はできません。 そして、片側と両側がそれぞれどのくらいの割合で現れるかを数えた統計は、 確認できた範囲では公表されていません。 下のモデルでは、この三つの場合——片側・両側・貫通——を切り替えて比べられます。
立体樹枝(P6d型)。傾いた枝は雲粒の玉の上ではなく、主結晶の腕の表面から直接生えています——接合部の積層乱れ(双晶)が傾き 70.53° を決め、枝は «同じ結晶の続き» です。「上下の分かれ方」で全部片側からほぼ半々まで、「貫通型を混ぜる」で板の厚みの中から上下に伸びる枝を試せます。読み出しに上側・下側の本数が出ます。枝の形は扇状と交差角板状の2種類(藤野・本吉 2021)。「真上から」は実物写真の真上撮り、「斜めから」は斜め撮りに対応する視点です(真上からでは高さ方向が潰れて上下の判別がつきません)。
枝の根元に «雲粒の玉» は見えないのがふつうです。 菊池図鑑 P6d「立体樹枝付樹枝」の実物写真では、傾いた枝は 主結晶の腕の表面から直接生えていて、 根元に丸い雲粒がはっきり写るとは限りません。 確かなのは接合部の結晶学です——枝は独立に生まれた別結晶ではなく、 腕の表面から積層乱れ(双晶)を介して生え出た «同じ結晶の続き» であり、 だから傾きが約 70° にそろいます。 引き金が雲粒の衝突だった場合でも、雲粒は母結晶になじんで凍り、 玉としては残らないことが多いのです。 面の傾きの上限が 70.5° で、面内の向きによってはそれ以下の仰角に見えます。 水滴の凍結実験でも、隣り合う結晶の主軸のなす角は 60〜80° にピークを持ち、 貫入双晶のように凍った 18 例のうち 13 例がほぼ 70° でした(上田・菊地 1976)。 上のモデルもこの構造(主星1枚+腕の表面から生える枝、雲粒の玉なし)で描いています。
電荷や電場は、雪結晶の基本晶癖や複雑構造の第一原因というより、 成長・衝突・配向を補助または増幅する二次的要因と考えるのが安全です。
できること:電場は曲率半径の小さい枝先・角・副枝先端に集中します。 水蒸気分子は中性ですが分極するため、強い電場勾配がある場所への供給が増える可能性があります。 また、互いに反対符号の電荷や外部電場による誘導双極子は、 氷晶どうしの接近・配向・付着確率を高め得ます。 したがって、併合型の重なり六花や十二花では、電気力が «出会い» を助けた可能性はあります。
できないこと:現在のところ、電荷が 1+5・2+4・3+3 という枝分配を直接決めるという証拠も、 十二花の約 30° という面内回転角を選ぶという証拠も、 二重板構造そのものを必須的に作るという証拠もありません。 数値でも棄却できます——通常の雪雲の約 100 V/m では、 µm サイズの結晶の配向エネルギーは kT の10万分の1以下です。 強電場は実在の効果を持ちますが(実験室の «電気氷針»)、 その指紋は「場に沿った針」であって、宿主結晶の軸への角度量子化ではありません。
| 量 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| 基本配置が決まる大きさ | 0.1〜0.5 mm | 完成は 1〜3 mm |
| 層間隔・中心柱 | 数十 µm 級 | |
| 十二花のズレ角 | 約 30° | 形成経路は併合型が有力 |
| 十八花・二十四花のズレ角 | 20°/15° | 等間隔の場合。360° ÷ 花数 |
| 凍結水滴の成分軸の角(実測) | 60〜80° | ピーク。焼結後も残る(上田・菊地 1976) |
| <111> 方向どうしの角 | 70.5°/109.5° | 立方配列モデル。砲弾集合・交差角板・立体樹枝に共通 |
| 御幣の先端角(実測116個) | 約77°(主)/約54°(副) | 2世代の立方積層で説明。予言される他の角は未観測(Sato & Kikuchi 1985) |
| 立体樹枝の枝の傾き | 70.53° | = 180° − 109.47°、実測ピークは約 70° |
| 雪雲の電場 | 約 100 V/m | 配向エネルギーは kT の 10⁻⁵ 以下 |
初版:2026-08-05 以前(正確な作成日は記録なし——判明し次第記入)|最終更新:2026-08-12