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段階 12 / 12大きな雪片

手のひらに落ちてくる 1〜2 cm 級の «雪のひら» の多くは、 複数の雪結晶が落下中にぶつかり、絡み合ってできた集合体です。 ただし平板型の単結晶にも 10 mm 以上の例があり(Kikuchi ほか 2013)、 大きさだけで単結晶か集合体かは決められません—— 中心や枝の連続性・結晶方位・接触部を観察して区別します。

この«段階»という並びについて。本サイトの「段階」は、構造と機構を理解しやすく並べた教育上の整理です。すべての雪結晶がこの順序ですべての形を通過するわけではありません。

このページの内容

  1. なぜ大きな雪片の多くは集合体なのか
  2. 集合のしくみ
  3. 温度が «くっつきやすさ» を決める
  4. 集合体としての姿
  5. ここまでの道のり

操作方法:モデルはドラッグで自由に回転できます(スマートフォンでは1本指でなぞる)。「真上から」ボタンで顕微鏡写真と同じ視点、「真横から」で厚みや層構造が分かる視点になります。スライダーのあるモデルは、形を決めている量そのものを動かせます。

なぜ大きな雪片の多くは集合体なのか

−15 ℃の氷飽和付近では、水蒸気の密度は氷の密度の約 66万分の1 (約 1.5×10⁻⁶)にすぎず、1辺 10 nm の箱に含まれる水分子は平均 0.05 個です。 気相がきわめて希薄であることを示す、有用な桁の見積もりです。

ただし注意が2つあります。第一に、飽和状態では氷表面への分子の衝突と 離脱が釣り合うので、衝突頻度(1サイトあたり約 1.6 µs に1回)そのものは 正味の成長速度ではありません。正味成長は氷過飽和度・面ごとの付着係数・ 水蒸気と潜熱の輸送・雲内滞在時間で決まります。 第二に、「1 cm の結晶=10¹⁸ 分子級」は、 厚さ 10 µm・面積充填率 5 % 程度のごく薄く疎な樹枝を仮定したときの桁で、 充実した形を仮定すれば何桁も変わります。 したがって「水蒸気が足りないことだけが単結晶の上限を決める」とは言えず、 上限を一つの寸法で言うこともできません。

集合のしくみ

大きな雪片は、次のようにしてできます。

  1. 接近・衝突:大きさや形の違いによる落下速度差、乱流、気流によって結晶どうしが出会う。
  2. 初期保持:枝の機械的な絡み・表面付着・雲粒付着部分などによって、衝突後に離れず残る。
  3. 接触後の強化(焼結):接触点で氷が再配列し、首(ネック)が発達して結合が強くなる。 焼結は結晶を遠くから引き寄せる力ではなく、接触後に結合を強くする過程です。

雪片(集合体)の模式。新しい結晶は既存の結晶に接触するまで近づけてから固定する構成なので、全体は必ず一つの連結体になり、接触点は結晶数−1(読み出しに表示)。接触点の小さな白い粒は焼結ネックの模式です。スライダー「絡み合いの深さ」は接触を保ったまま食い込みを変えます。構成粒子は樹枝(A2 平板型集合の成分)のみで、柱状の集合(A1)や柱・板複合(A3)は未実装です。衝突運動・空力配向・ネック成長速度は計算していません。

«くっつきやすさ» を決めるもの

集合しやすさは、温度のほか、結晶の形状(枝の絡みやすさ)、落下速度差、乱流、 雲粒付着の程度、湿度によって変わります。 融点近くの湿った雪が地上で付着・圧密しやすい傾向は確かにあります。 しかし雲中の氷晶の集合効率を、温度だけの単調な関数として説明することはできません。 実験室の測定(Connolly ほか 2012:水飽和付近・粒径約 500 µm 以下の初期集合)では、 −15 ℃で集合効率 0.35〜0.85 に絞り込まれ、 他の温度では 0.5 を超える効率が多くの場合棄却されました—— 少なくともこの条件では、−15 ℃付近が «付きにくい» とは言えません。 樹枝の枝の絡みが効くと考えられています。

接触後の接着には、第4段階で見た表面の乱れ(前融解・準液体的な領域)が 関わる可能性があります。ただし準液体層は温度だけで決まる一様な膜ではなく、 結晶面・水蒸気圧・不純物・成長と昇華の履歴によって形態と厚さが変わることが 報告されています——「−15 ℃では最上層1枚」のように固定することはできません。 地上で雪玉が作れるかどうかは液水量・圧密・雪粒形状にもよるので、 雲中の微小氷晶の集合効率と同じ条件ではありません。 冷凍庫の氷どうしがくっつくのは、焼結を身近に想像するための類似例です (温度・湿度・接触条件は雲中とは異なります)。

集合体としての姿

集合体を3Dで表すとき、 1個の対称な結晶を拡大してはいけません。 実際の雪片は、向きも大きさもバラバラの結晶が、 数か所の接触点だけで絡み合った、空隙の多い構造をしています。 上のモデルはこの点を意識して、 向き・大きさ・副枝の数をランダムに変えた六回対称の樹枝を組み合わせています (グローバル分類には柱状の集合 A1・柱板複合の集合 A3 もあり、本モデルは A2 の樹枝成分のみです。 なお低温型 CP6〜CP9 どうしの併合は殆ど見られません——数が極端に少ないうえ、 初期結晶と一緒に低温条件下で見られるためです:2012年分類論文)。

この «スカスカ» であることが、雪の性質を決めています。 新雪の密度は条件により大きく変わりますが、よく見られる 50〜100 kg/m³ の乾雪を 氷の密度(917 kg/m³)と比べると、氷が占める体積は約 5〜11 %、空隙は約 89〜95 % です (湿雪では空隙の一部に液体水も含まれます。新雪密度の観測範囲の一次出典は注記ページの宿題)。 この多孔質な氷骨格と空隙が、雪の吸音性・断熱性・圧縮されやすさに関係しています。

ここまでの道のり

水分子1個の 0.3 nm から、雪片の 2 cm まで。 長さの比は約 8 桁、その比を単純に3乗した包絡体積の比は約 24 桁です ——雪片は空隙の多い集合体なので、実際の氷物質量の比ではありません。 このスケールを12段階でたどってきました。

以下は各構造が見やすくなる代表的な寸法域です。 普遍的なしきい値でも、すべての結晶が順番に通る必須段階でもありません。 各範囲は重なり、温度・過飽和度・気圧・成長時間・衝突履歴によって変わります。

段階大きさ主に効いているもの
1. 水分子0.3 nm分子の極性、水素結合
2. 六員環0.5〜1 nm四面体結合の幾何
3. 氷Ih 格子数 nm〜結晶の対称性、氷の規則
4. 表面の一層成長0.4 nm〜µm二次元核形成、ステップ流、前融解
5. 初期氷晶1〜5 µm氷核形成、雲粒凍結
6. 板か柱か5〜20 µm面別の付着係数(未解決の核心)
7. 薄板・中空・表裏数十 µm〜(普遍値なし)成長の異方性、初期非対称
8. 主枝開始寸法に普遍値なし拡散不安定性+付着動力学
9. 副枝開始寸法に普遍値なし(P3典型径1〜3 mm・10 mm以上も)先端の再不安定化
10. 立体的な結晶0.1〜3 mm二層競争、併合、積層乱れ
11. 雲粒付着・雪あられ着氷開始に普遍的寸法なし。R4平均径 1〜3 mm着氷成長(雲粒は約10〜100 µm の観察例)
12. 雪片サブ mm 段階から集合し得る。大きな雪片は数 mm〜cm 級接近・保持・焼結

雪結晶の形は、分子構造だけで一意に決まるのではありません。 分子レベルの付着動力学、結晶面の異方性、周囲の水蒸気拡散、 初期核の非対称性、二層間の競争、衝突、雲粒付着—— それぞれが異なるスケールで重なり合って、最終的な形を作ります (電荷・電場は接近・配向・付着・先端成長を補助し得る二次的要因で、 基本晶癖や集合形を一意に決める主要因とは確認されていません)。

そして、その中心には現在も未解決の問いがあります—— 氷の基底面と柱面の成長優位は、なぜ温度・過飽和度・気圧に応じて 複数回交替するのか。中谷の晶癖図の整備からおよそ90年、 この形態変化を分子過程から入力なしで定量予測することは、なお達成されていません。

初版:2026-08-05 以前(正確な作成日は記録なし——判明し次第記入)|最終更新:2026-08-12