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段階 1 / 12水分子

雪結晶の六回対称性は、水分子1個の中にはありません。 六角形は、多数の水分子が氷の格子として並んだ結果として初めて現れます。 出発点にあるのは、曲がっていて、電気的に偏っているという 水分子の性質です。 ただし «曲がり+極性» だけで氷の六角形が決まるわけではありません—— 氷の中では各分子が水素結合を2本供与し2本受容して、 水分子どうしが水素結合でつながり、正四面体状のネットワークをつくります—— 各分子が正四面体の中心に立ち、4つの隣が頂点に来る形です (下のモデルの「正四面体」で立体のまま確かめられます。109.47° はこの正四面体の中心角です)。 この結合様式こそが、次の段階以降で六方対称につながる鍵です。

このページの内容

  1. 形と大きさ
  2. 電気的な偏り
  3. 水素結合
  4. 1個の分子には、まだ何もない
  5. この段階の数値

操作方法:モデルはドラッグで自由に回転できます(スマートフォンでは1本指でなぞる)。「真上から」ボタンで顕微鏡写真と同じ視点、「真横から」で厚みや層構造が分かる視点になります。スライダーのあるモデルは、形を決めている量そのものを動かせます。

形と大きさ

水分子 H₂O は直線形ではありません。酸素原子を頂点として2本の O–H 結合が 104.5° の角度で開いた、くの字形をしています。 O–H の長さは 0.9572 Å(0.09572 nm)で、分子全体の差し渡しはおよそ 0.3 nm です。

なぜ曲がるのか。酸素原子は、2本の O–H 結合のほかに 2組の孤立電子対を持っています。結合電子対2組と孤立電子対2組、 合わせて4組の電子雲が互いに反発して、できるだけ離れようとすると、 正四面体の頂点方向(互いに 109.47°)に落ち着きます。 孤立電子対のほうが結合電子対よりわずかに «太い» ため、H–O–H の角度は 109.47° からやや押しつぶされて 104.5° になります。

水分子。「電荷の偏り」で δ+/δ−、「4本の手」で4方向の広がり、「正四面体」でその広がりを正四面体そのもの(中心=この分子、頂点=4つの隣。辺 4.51 Å は第3段階の格子定数 a)として、「水素結合」で2分子のつながりに切り替わります。

電気的な偏り

酸素は水素より電子を強く引きつけます。その結果、酸素側がわずかに負(δ−)、 水素側がわずかに正(δ+)になります。 分子は曲がっているので、この偏りが打ち消し合わずに残り、 分子全体が電気的な «向き» を持つことになります。

ただし、分子全体としては電気的に中性です。 雪結晶が帯電しているという話がときどき出ますが、 結晶をつくる分子は1個1個が中性なので、 理想的な化学量論模型の総電荷もゼロです。 ただし実際の雪結晶は帯電し得ます——イオンの捕捉、成長・昇華、 衝突・破砕などで正または負の正味電荷を持つことが測定されています。 表面の δ+/δ− の局所分布と、結晶全体の帯電は別の量です。 表面に見える «電気的な模様» は、δ+ と δ− の並び方のゆらぎによるまだら模様であり、 正味の電荷ではありません。

水素結合

ある分子の δ+ の水素が、隣の分子の δ− の酸素(正確にはその孤立電子対)に引き寄せられます。 これが水素結合です。強さは定義と環境で変わります—— 気相の水二量体では、零点振動を含む解離エネルギー D₀ ≈ 0.14 eV、 電子的な井戸の深さ Dₑ ≈ 0.22 eV。氷中では多体の協同性があるため «1本あたり» を一意に切り分けることはできません。共有結合よりずっと弱く、 通常の共有結合(数 eV)よりはるかに弱く、単なる分子間の引力(数 meV〜数十 meV)より はるかに強い、中間の強さを持ちます。

この «中間の強さ» が効いています。 もっとも、液体か固体かは1本の結合の強さだけでなく、 系全体のエネルギーとエントロピーの釣合い(自由エネルギー)で決まります。 強すぎれば分子は動けず、 弱すぎれば規則的に並べません。 0 ℃前後で、水は結合を組み替えながら液体でいられ、 少し冷えれば規則正しい結晶になれる——この絶妙な位置に水素結合はあります。

水素結合が組まれると、酸素どうしの距離は氷の中では約 2.76 Åになります(孤立した気相の二量体では約 2.9 Å 台と、環境で変わります——下のモデルは氷中の局所水素結合の模式です)。 この長さが、次の段階以降のすべての寸法の基準になります。

1個の分子には、まだ何もない

よくある誤解。「水分子が六角形だから雪が六角形になる」という説明を見かけますが、 これは正しくありません。水分子は三角形(正確にはくの字)であって、六角形ではありません。 六回対称性は、次のページで見るように、多数の分子が四面体的につながった結果として生まれます。

この段階の数値

備考
O–H 結合長0.9572 Å孤立気相分子の代表的な平衡値
∠H–O–H104.5°四面体角 109.47° よりやや狭い
分子の差し渡し約 0.3 nmファンデルワールス半径込み
O···O(水素結合時)2.76 Å氷Ih での値
気相二量体の D₀約 0.14 eV零点振動を含む解離エネルギー
気相二量体の Dₑ約 0.22 eV電子的な井戸の深さ
氷中の«1本あたり»一意に定義できない多体効果・協同性のため

初版:2026-08-05 以前(正確な作成日は記録なし——判明し次第記入)|最終更新:2026-08-12