雪結晶グローバル分類 CP9 の立体モデル

鴎状結晶(CP9a 内側角板付鴎・CP9b 外側角板付鴎・CP9c 両側角板付鴎・CP9d 内側鋸歯付鴎・CP9e 外側鋸歯付鴎)

グローバル分類(菊地ほか 2012;Kikuchi et al. 2013)の【CP9:鴎状結晶(Seagull-type crystal)】は、一寸変わった名称にしましたが、両側に大きく開いた羽根で大空を滑空している鴎に似ていることから、これも著者の一人(KK)が名付けた名称です。羽根の付け根の中央部は、あたかも鴎の胴体と頭のように見えます。羽根の両先端までの幅は数 mm 以上あり、肉眼で容易に発見することが出来ます。成長温度範囲は −25 ℃以下です。一般に低温型といわれてきた結晶の出現頻度は観測された結晶数の精々 1〜5 % 程度ですが(Kajikawa et al. 1980)、この鴎状結晶は短時間にまとまって降る傾向があります。発見当初は開いた羽根の角度の大小が議論されましたが(Kikuchi and Kajikawa 1979)、サンプル数が増えるにつれて更に数種に分類されることが分かりました。それは羽根の内側や外側に角板か鋸歯のような形をした結晶が成長する外形の大きな違いです。平均的な大きさは 2〜8 mm です。

5 つの型。 「CP9a:内側角板付鴎」と「CP9b:外側角板付鴎」は、羽根の内側と外側、つまり胴体側とその反対側に角板が連続して成長している結晶です。「CP9c:両側角板付鴎」は、羽根の内側と外側の両側に主として角板が成長している結晶です。「CP9d:内側鋸歯付鴎」「CP9e:外側鋸歯付鴎」は、羽根の内側と外側に角板ではなく鋸歯のような形の結晶が成長しているものです。これらの観測事実から「CP9c:両側角板付鴎」のように両側鋸歯付鴎があってもよさそうですが、現在までのところ報告されていません。

山下(1974;1979)の V 字氷晶。 山下は、高温領域(−3〜−10 ℃)と低温領域(−18 ℃以下)で「V 字氷晶」の成長を報告していますが、この結晶の細かなところを除けば鴎状結晶によく似た形状をしています。

「胴体」は丸い玉ではありません。 図鑑の「羽根の付け根の中央部は、あたかも鴎の胴体と頭のように見える」という記述は見かけのたとえで、そこに球があるという意味ではありません。鴎状結晶は御幣や矛先と同じ低温型の多結晶で(Sato and Kikuchi 1985 は低温型の主な外形として Tetragon・Seagull・Gohei を挙げ、そのほとんどが多結晶だとしています)、出発点は過冷却の雲粒が凍って多結晶になったものと考えられています。もとの雲粒は 10〜50 µm、結晶は 2〜8 mm まで育つので、中心に丸い玉が見えることはありません。モデルでは中央部を「2 本の羽根の結晶が接するところに柱状の結晶が厚く育った部分」として面のある形で描き、出発点の凍結雲粒(多結晶)を小さく添えています。

モデルの見方。 中央部から左右に大きく開いた 2 本の羽根が伸び、羽根に沿って角板または鋸歯が並びます。「羽根の開き角」スライダーで角度を変えられ、「内側/外側」の付き方は型ごとに固定です。

画面をドラッグすると回転、ホイール(スマートフォンではピンチ)で拡大縮小できます。各モデルは論文の記載と代表写真をもとにした模式図で、寸法比は見やすさのため誇張しています。

1. CP9a:内側角板付鴎Seagull with attached plates inside wings

羽根の内側、つまり胴体側に角板が連続して成長している結晶です。

羽根・中央部 中心の凍結雲粒(多結晶) 付着した角板
構造のポイント
  • 中央部(羽根の付け根)から左右に大きく開いた 2 本の羽根。羽根の両先端までの幅は数 mm 以上。
  • 中央部は柱状の結晶が厚く育った部分で、球ではない。出発点は多結晶に凍った雲粒と考えられる。
  • 角板は羽根の内側(胴体側)に連続して並ぶ。
  • 成長温度は −25 ℃以下。短時間にまとまって降る傾向がある。

2. CP9b:外側角板付鴎Seagull with attached plates outside wings

羽根の外側、つまり胴体とは反対側に角板が連続して成長している結晶です。

羽根・中央部 中心の凍結雲粒(多結晶) 付着した角板
構造のポイント
  • 角板が羽根の外側(胴体と反対側)に並ぶ点が CP9a との違い。
  • 羽根と胴体の形は CP9a と同じ。

3. CP9c:両側角板付鴎Seagull with attached plates on both sides of wings

羽根の内側と外側の両側に、主として角板が成長している結晶です。

羽根・中央部 中心の凍結雲粒(多結晶) 付着した角板
構造のポイント
  • 角板が羽根の内側にも外側にも並ぶ。
  • 羽根と胴体の形は CP9a・CP9b と同じ。

4. CP9d:内側鋸歯付鴎Seagull with attached serrate crystals inside wings

羽根の内側に、角板ではなく鋸歯のような形をした結晶が成長しているものです。

羽根・中央部 中心の凍結雲粒(多結晶) 鋸歯状の結晶
構造のポイント
  • 羽根の内側に、のこぎりの歯のような三角形の結晶が並ぶ。
  • 角板付(CP9a)との違いは、付着している結晶の形。

5. CP9e:外側鋸歯付鴎Seagull with attached serrate crystals outside wings

羽根の外側に、鋸歯のような形をした結晶が成長しているものです。なお、両側鋸歯付鴎があってもよさそうですが、現在までのところ報告されていません。

羽根・中央部 中心の凍結雲粒(多結晶) 鋸歯状の結晶
構造のポイント
  • 鋸歯状の結晶が羽根の外側に並ぶ点が CP9d との違い。
  • 両側に鋸歯が付いたものは、現在までのところ報告されていない。

参考文献

  • 菊地勝弘・亀田貴雄・樋口敬二・山下晃・雪結晶の新しい分類表を作る会メンバー(2012):中緯度と極域での観測に基づいた新しい雪結晶の分類―グローバル分類―.雪氷,74(3),223–241.(CP9 の定義、表3、図1-3 の代表写真)
  • Kikuchi, K., Kameda, T., Higuchi, K., Yamashita, A. and Working group members for new classification of snow crystals (2013): A global classification of snow crystals, ice crystals, and solid precipitation based on observations from middle latitudes and polar regions. Atmospheric Research, 132–133, 460–472.
  • Kikuchi, K. and M. Kajikawa (1979): Comments on V-shaped snow crystals observed in Arctic Canada. J. Meteor. Soc. Japan, 57, 484–487.
  • Sato, N. and K. Kikuchi (1985): Formation mechanisms of snow crystals at low temperature. Ann. Glaciol., 6, 232–234.(低温型結晶 Tetragon・Seagull・Gohei はほとんどが多結晶で、凍結雲粒から成長する)
  • Kajikawa, M., K. Kikuchi and C. Magono (1980): Frequency of occurrence of peculiar shapes of snow crystals. J. Meteor. Soc. Japan, 58, 416–421.
  • 山下晃(1974):大型低温箱を使った氷晶の研究.気象研究ノート,123,49–94./山下晃(1979):自由落下中に成長する人工雪の結晶.日本結晶成長学会誌,6,41–51.